コロナ禍における東京の不動産市場動向

2021年7月25日 投稿者: hagedanji

令和3年地価公示(東京23区)の動向

まず、令和3年の地価公示価格(令和3年1月1日時点の価格)の動向をみてみましょう。東京都全域でみた場合、住宅地および商業地で、対前年度年間変動率(以下、変動率といいます)が8年ぶりでマイナスとなりました。

東京都全域と同様に、23区でも住宅地・商業地ともにマイナスとなっていますが、住宅地では23区のうち港区(前年+6.2%)と目黒区(同+4.1%)が+0.3%で、前年より変動率を縮小しつつもプラスを維持、他の21区はマイナスでした。一方、商業地は全ての区で変動率マイナス。最も低かったのは-4.0%の台東区(前年+14.9%)で、-3.9%の中央区(同+8.9%)、-3.1%の新宿区(同+8.1%)がこれに続いています。住宅地として人気のある区はコロナ禍でもプラス、対して商業地では、浅草、銀座、歌舞伎町などインバウンドで人気の高かった場所がある区を中心にマイナスとなったようです。また、工業地では、Eコマースの進展等による物流施設への需要などから、変動率は縮小しつつもプラスの変動率となっています。

次に、半年単位の動向をみてみましょう。東京都地価調査の基準地と同一地点である標準地(以下、共通地点といいます)209地点について、前半期(R2.1.1~R2.7.1)・後半期(R2.7.1~R3.1.1)の平均変動率は表2の通りです。

住宅地は、前半期を中心に、新型コロナウイルス感染症拡大に伴う経済活動の停滞や、将来的な雇用・所得に対する不透明感などから需要が低迷していましたが、後半期は回復傾向となり、変動率は±0となっています。一方、商業地は、変動幅は縮小しているものの後半期も変動率マイナスとなっています。要因としては、年間を通してのインバウンド消滅や国内の旅行・出張の減少によるホテル需要の減退や店舗の収益性低下があげられますが、一部の商業地では後半期に需要の回復が存することが窺えます。

地価ルックレポートによる考察

次に、国土交通省が発表している地価LOOKレポートにより東京23区内における特定の地域の地価動向をみてみましょう。

地価LOOKレポートとは、主要都市の地価動向を先行的に表しやすい高度利用地等の地区について、四半期毎に地価動向を把握することにより先行的な地価動向を明らかにする目的で調査され、国土交通省から発表されるレポートです。今回は令和2年第4四半期(R2.10.1~R3.1.1)の動向についてみていきます。

地域は筆者が独断と偏見で選んでおり、不動産鑑定士のコメントもポイントのみ抜粋しておりますので、その点はご了承ください。

上記のように、東京23区内の代表的な住宅地と商業地を選んでみました。住宅地は概ね横ばいですが、商業地は場所によって違いがあります。歌舞伎町や上野といった、飲食店が多く集積し、インバウンド需要を背景に賑わいが続いていた地域の落ち込みが続いており、丸の内など元々オフィス需要の強い地域は横ばいとなっているようです。銀座については、歌舞伎町・上野並みに落ち込んでいるのかなと思っていましたが、このレポートではそこまで落ち込んでいるわけではないようですね。やはり、「銀座」ブランドで一定の需要があるということだと思います。

直近の不動産市場動向

地価ルックレポートの令和3年第1四半期(R3.1.1~R3.4.1)は6月中旬頃に発表される予定であり、マーケットがどう変化しているかとても興味があるところですが、ここで直近の新聞記事を見てみたいと思います。

「1~3月の不動産売買額 首都圏が世界2位に…JLL調査 新型コロナウイルス禍の日本において企業や海外投資家による取引が活発になっている。用途別ではオフィスへの投資割合が前年同期より増えており、オフィス投資回復の兆しもみえる。(令和3年5月21日・日経本紙17面)」

「オフィス型 再評価の機運…堅調なREIT市場で、オフィス型を再評価する機運がじわりと広がっている。…買い材料となったのは、オフィスの中でも中小規模の需要が復調となっていることだ。テナントの解約はピークアウトしたとの見方が優勢で、設備などの面で在宅勤務が進まない中小企業では小規模オフィスの需要が増えている。(令和3年5月21日・日経本紙21面)」

このように、オフィスが回復局面に入ってきていることを窺わせる記事が出てきています。都心の通勤電車の混雑状況や昼食時の人出(神田ですが)を見ると、在宅勤務が進んでいるのは大企業に限られ、中小企業以下ではコロナ以前と変わらず出勤しているのではと、感じていましたが、本当にそのような状況になっているのかもしれません。コロナ以前との唯一の違いは、居酒屋が営業していないことでしょうか(泣)。

まとめ

以上、東京の不動産市場動向を概観してみました。全般的には昨年の後半から持ち直しつつも、立地、アセットタイプ、価格帯等によって様々な動きをしており、一概には傾向を捉えられない状況のなか、オフィスが回復の兆しを見せ始めている、ということでしょうか。一方で、東京オリンピック、ワクチン接種の普及状況など、不確定要素が多く、それらが東京の不動産市場動向にどのように影響を及ぼすか、今後も注視が必要ではないかと思われます。