抵当権の及ぶ範囲(未登記建物等)
2021年7月25日まず、民法における付加物、付合、従物の概念を整理します。
・付加物(民法370条)
「抵当権は、土地を目的とするものである場合は、その土地に付属して土地と一体をなしている物(石垣など)にも及び、建物を目的とするものである場合には、その建物に付属して建物と一体をなしている物(建物の造作など)にも及ぶ」という規定で、抵当権設定の先後に拘らず抵当権の効力が及ぶとされています。例外はありますがここでは省略します。
・付合(民法242条)
付合物にも原則として抵当権の効力が及びます。付合物とは「不動産に従として付合した物」ですが、抵当不動産に付合される物は、付合によって抵当不動産の構成部分となって独立性を失い(社会観念上不動産の構成部分をなすに至った場合)、抵当不動産の所有権に吸収されるとみられるので、この付合物が付加物に含まれることには異論がありません。付合する時期は、抵当権設定の前でも後でもその効力に差異はなく、すなわち、抵当権設定後に付合した物であっても抵当権の効力が及びます。
・従物(民法87条)
従物とは主物(抵当不動産)の経済的効力を助けるために主物に付属された物ですが、従物は主物の一部分になるのではなく、主物とは別の物でありながら、主物とともに処分されます。よって、従物にも主物に設定された抵当権の効力が及ぶものと解されています。 トイレや物置などの付属建物は主たる建物の従物とみられます。例えば、下図のように倉庫、車庫といった、既登記建物(事務所ビル)における事業に必要な建物であり、客観的に見て既登記建物との関連性が強い場合には従物と判断される可能性が高いようです。ただし、それらの建物が独立して一個の建物として登記されると抵当権の効力は及ばなくなってしまいます。 たとえば、ある工場と同一敷地内に社員寮(共同住宅)がある場合、そもそもは社員寮として使っていたものを、現在は共同住宅として第三者に賃貸している、といったような場合、
倉庫、社員寮など、ある程度の規模があり、用途的に主たる建物として登記することも可能な未登記建物の場合などがそれに該当します。 たとえば、ある工場と同一敷地内に社員寮(共同住宅)がある場合、そもそもは社員寮として使っていたものを、現在は共同住宅として第三者に賃貸している、といったような場合、その共同住宅は工場との関連性が無くなっていることになり、独立した共同住宅として登記が可能となります。その結果、工場(主たる建物)に設定されている抵当権の効力は当該共同住宅に及ばなくなる可能性があります。
抵当権設定当時に存在していた従物にその効力が及ぶことについては、判例・通説とも異論はありません。通説が抵当権設定後の従物についてもその効力が及ぶとするのに対し、判例は必ずしも明確ではないようです。 整理すると、増改築された部分が元々あった建物と一体となってしまえば抵当権の効力は及び、従物にも抵当権の効力が及ぶ、ということが基本的な考え方です。ただし、繰り返しますが、 それらの建物が独立して一個の建物として登記されると抵当権の効力は及ばなくなってしまいます。